前後截断録 第13回
井伊氏関係二書の出版
(黒田基樹氏著『井伊直虎の真実』と大石泰史氏編『井伊直政文書集』)


ひとつは資料提供協力をした黒田氏の本である。本物の直虎を冊中の一部分紹介ではなく、まとめて一書とした本がやっと出たという感じである。当方発見の新史料(『守安公書記』)を直虎の出身や徳政説明の根元にすえた新著である。
まだ一度通読しただけで、軽々の感想は語るべきではないが、前記のように新出の当家史料を踏まえ、井伊直虎は当方発表と同様今川系の青年武将で女城主ではなく男だと断定している。但当方所蔵の史料の使用のしかたに残念なところもあり、また新史料もその要所はまだ数行の発表の範囲しか出していない状況なので、その他未公開の井伊家史料をも合わせて検討すると、細部においては見解の異る部分がある。しかし、新しい信憑性ある史料を認識し、率先して研究に挑戦しようとする姿勢は大切なことである。
序でながら著者が刊行を急いでいる本書『ほんものの井伊直虎︱ホントの本当』であるが、『井伊直弼史記︱若き日の実像︱』と重なっているので、なかなか捗らない。同じやるならあれもこれも書き入れようと欲張っているのも遅れの原因かも知れぬ。別段「大河ドラマ」中に一稼ぎというような色気をもった絶対的企画でもない。伏櫪の老馬の仕事ゆえ、マイペースでやろうという存念である。いずれにせよ、今のところ井伊直虎の正体に迫った本格的書き物は原史料および井伊家文書類の原本を直接的に使用した本書だけであろう。聊か大袈裟にいえば日本歴史最大の勘違い︱男女取り違え︱の史実化は明確に訂されなければならない。大いに意味のある仕事だと考えている。
今一書は現在戦国有数の人気武将井伊直政に関係する文書の集成である。井伊家といえばとり上げられる人物は、つい先頃まで「直弼」だけであった。それが戦国ブームの到来と、また大河ドラマなどにもとりあげられることになって、やっと歴史の表舞台に登場させられるようになった。
たったひとつの直政伝記である当方の『井伊軍志』発刊以来それから何と30年もの時間を要したのである。まこと命なりけり――である。よろこばしいことであり、そういった中でも本書の刊行は、時宜を得た出版といえるだろう。井伊直政関係文書の集成が今迄出ていなかったことも、よく考えれば不思議なことである。研究者にとっては大変貴重な史料集である。
勿論、本書に洩れている重要文書も既に知られているものの範囲に於いて尚何件もあるけれども、それも致し方なき次第であろう。遺漏なき出版物などありはしない。早くやることはともかく肝要事である。「直政」と聞くと他人事でないから、嬉しい。今更いうことでもないが、氏はNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の時代考証を担当しておられる。
(黒田基樹氏著『井伊直虎の真実』と大石泰史氏編『井伊直政文書集』)


ひとつは資料提供協力をした黒田氏の本である。本物の直虎を冊中の一部分紹介ではなく、まとめて一書とした本がやっと出たという感じである。当方発見の新史料(『守安公書記』)を直虎の出身や徳政説明の根元にすえた新著である。
まだ一度通読しただけで、軽々の感想は語るべきではないが、前記のように新出の当家史料を踏まえ、井伊直虎は当方発表と同様今川系の青年武将で女城主ではなく男だと断定している。但当方所蔵の史料の使用のしかたに残念なところもあり、また新史料もその要所はまだ数行の発表の範囲しか出していない状況なので、その他未公開の井伊家史料をも合わせて検討すると、細部においては見解の異る部分がある。しかし、新しい信憑性ある史料を認識し、率先して研究に挑戦しようとする姿勢は大切なことである。
序でながら著者が刊行を急いでいる本書『ほんものの井伊直虎︱ホントの本当』であるが、『井伊直弼史記︱若き日の実像︱』と重なっているので、なかなか捗らない。同じやるならあれもこれも書き入れようと欲張っているのも遅れの原因かも知れぬ。別段「大河ドラマ」中に一稼ぎというような色気をもった絶対的企画でもない。伏櫪の老馬の仕事ゆえ、マイペースでやろうという存念である。いずれにせよ、今のところ井伊直虎の正体に迫った本格的書き物は原史料および井伊家文書類の原本を直接的に使用した本書だけであろう。聊か大袈裟にいえば日本歴史最大の勘違い︱男女取り違え︱の史実化は明確に訂されなければならない。大いに意味のある仕事だと考えている。
今一書は現在戦国有数の人気武将井伊直政に関係する文書の集成である。井伊家といえばとり上げられる人物は、つい先頃まで「直弼」だけであった。それが戦国ブームの到来と、また大河ドラマなどにもとりあげられることになって、やっと歴史の表舞台に登場させられるようになった。
たったひとつの直政伝記である当方の『井伊軍志』発刊以来それから何と30年もの時間を要したのである。まこと命なりけり――である。よろこばしいことであり、そういった中でも本書の刊行は、時宜を得た出版といえるだろう。井伊直政関係文書の集成が今迄出ていなかったことも、よく考えれば不思議なことである。研究者にとっては大変貴重な史料集である。
勿論、本書に洩れている重要文書も既に知られているものの範囲に於いて尚何件もあるけれども、それも致し方なき次第であろう。遺漏なき出版物などありはしない。早くやることはともかく肝要事である。「直政」と聞くと他人事でないから、嬉しい。今更いうことでもないが、氏はNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の時代考証を担当しておられる。
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